救急病棟の開設と不安なスタート
私は看護師長として、救急病棟を立ち上げました。
開設当初、病棟経験のあるスタッフはほんの数人。あとは新人看護師と、救急外来経験者がほとんどという体制でした。
それでも、「看護って本当に素晴らしい」と心から感じた出来事があります。

突然の事故と、重い意識障害
ある日、看護学生のBさんが交通事故に遭い、私たちの救急病棟の集中治療室に運ばれてきました。
到着時、意識障害が強く、予断を許さない状況。急性期を何とか乗り切ったものの、頭部外傷による意識障害は続き、医師からは「後遺症が残るかもしれない」と告げられました。
Bさんに運動障害はありませんでしたが、感情の起伏が激しく、暴言や暴力が目立ちました。
配膳したお茶をかけられたり、介助しようとすると蹴られたり、無断で部屋からいなくなり探し回ることもありました。
スタッフはBさんから目を離さず、常に付き添っているような毎日。そんな日々が数週間も続きました。
「師長さん、私…目が覚めました」
ある朝、病室に入るとBさんがいつもより落ち着いていました。
「Bさん、おはようございます。ご気分はどうですか?」と声をかけると、
「師長さん、私…目が覚めました」と答えたのです。
昨日までのことは覚えていないものの、受け答えはしっかりしており、意識は明らかに回復していました。
私はすぐに担当医に報告し、診察でも回復が確認されました。

涙が出るような言葉
数日後、Bさんは私にこう話しかけました。
「皆さんに迷惑をかけていたと聞きました。でも、その間の記憶はほとんどありません。
ただ、看護師さんが私に優しくしてくれていたことだけは覚えています。」
そして私の目をまっすぐ見て、
「私、皆さんのような看護師になりたいです。だから、看護師になることを絶対にあきらめません。」と、はっきり言いました。
その瞬間、全身に鳥肌が立つような感動が走りました。
「看護って、人の生き方を変える力がある」と心から思った瞬間でした。

経験年数よりも大切なもの
救急病棟の経験が浅いスタッフたちでしたが、誰一人としてBさんを見放さず、「良くなる」と信じてケアを続けていました。
その姿を見て、私は気づきました。
看護において大切なのは経験年数ではなく、患者さんを信じる気持ちと、一生懸命向き合う姿勢だと。

Bさんのその後
Bさんはその後、学校に復学し、無事に卒業して看護師になりました。
きっと今は、患者さんの生き方に影響を与える看護師として活躍していることでしょう。
最後の読者メッセージ
「看護の力は、時に人の未来を変えます。あなたの“信じる気持ち”は、必ず患者さんに届きます。」
